アクティブリスニングとカウンセリングの違いとは?両方の特徴と効果的な活用法

アクティブリスニングとカウンセリングは、どちらも人の悩みや問題解決をサポートする大切な関わり方ですが、その目的や方法、用いられる場面には違いがあります。両者の特徴を理解することで、状況に応じた最適な選択や活用が可能になります。
アクティブリスニングとは?基本概念と特徴

アクティブリスニングとは、「積極的傾聴」とも訳され、相手の話に深く注意を向け、言葉だけでなく非言語的なサインや感情にも積極的に耳を傾ける姿勢や技術のことです。このコミュニケーション技法は、臨床心理学者カール・ロジャースによって提唱され、当初はカウンセリング分野で用いられていましたが、現在ではビジネスシーンや日常生活におけるコミュニケーションの質を高めるために広く活用されています。
アクティブリスニングは、単に話を聞くのではなく、相手の言葉や感情に寄り添い、共感的な理解を示すことで、話し手が安心して内面を探求し、自ら気づきや解決策を見出すのを助けることを目指します。
アクティブリスニングの3つの基本姿勢(ロジャーズの三原則)
この技法が効果を発揮するには、聞き手の姿勢として以下の3つが重要とされています。これらはカール・ロジャースが提唱したカウンセリングの基本原則でもあります。
- 自己一致(Congruence): 聞き手が自身の感情や考えを受け入れ、誠実でありのままの自分で相手と向き合うこと。
- 共感的理解(Empathic Understanding): 相手の立場に立ち、その感情や視点を深く理解しようと努め、その理解を相手に伝えること。
- 無条件の肯定的配慮(Unconditional Positive Regard): 相手を評価したり批判したりせず、ありのままの存在として尊重し、受け入れる姿勢。
これらの姿勢が土台にあることで、話し手は安心して自己開示できると感じ、建設的な対話が生まれやすくなります。
アクティブリスニングの技法
アクティブリスニングでは、以下のような具体的な技法が用いられます:
- パラフレーズ(言い換え): 相手の発言を自分の言葉で要約して返すことで、内容の確認と理解の深化を促します。「つまり、〇〇ということですね」といった形です。
- オープンクエスチョン(開かれた質問): 「はい/いいえ」では答えられない質問(例:「そのとき、どのように感じましたか?」)を投げかけ、相手がより自由に、深く話せるように促します。
- 感情の反射: 相手が言葉にした感情や、言葉にはなっていないが感じ取れる感情を「鏡」のように伝え返します。「それはお辛かったでしょうね」「〇〇と感じていらっしゃるのですね」など、感情に寄り添う姿勢を示します。
- 要約: 話の節目で内容をまとめることで、論点を整理し、話し手が全体像を把握するのを助けます。
カウンセリングとは?基本概念と特徴

カウンセリングとは、心理的な悩みや問題を抱えるクライエント(相談者)に対し、専門的な知識と技術を持つカウンセラーが心理的な支援を行うプロセスです。カウンセラーはクライエントとの対話を通じて、クライエントが自身の問題を理解し、乗り越え、成長していくことを援助します。
日本では、カウンセリングと心理療法は近い意味で使われることもありますが、一般的にカウンセリングは心理学の理論に基づいた専門的な対人援助活動を指します。クライエントの自己理解や問題解決を支援する、構造化されたプロセスです。
カウンセリングの特徴
カウンセリングには以下のような特徴があります:
- 専門性: 心理学の理論や確立された技法に基づく専門的な対人援助活動です。
- 構造化されたプロセス: 目標設定、問題の探求、対処法の学習、終結といった段階を踏んで進められることが一般的です。
- 目標志向: クライエントが抱える問題の解決、精神的な健康の回復・向上、自己成長など、明確な目標を設定して取り組みます。
- 専門的な環境: プライバシーが守られ、安心して話せる安全な空間(カウンセリングルームなど)で、定められた時間と頻度で行われます。
- 資格と倫理: カウンセラーは専門的な教育・訓練を受けており、多くの場合、公認心理師や臨床心理士などの資格を有しています。守秘義務などの倫理規定も遵守します。
カウンセリングの主な種類
カウンセリングにはさまざまな理論的背景を持つアプローチが存在します。代表的なものには以下のようなものがあります:
- 来談者中心療法: カール・ロジャースが提唱。クライエント自身の成長力を信頼し、受容・共感・自己一致の姿勢で関わることで、クライエントの内面の変化を促します。(アクティブリスニングの基礎理論でもあります)
- 認知行動療法(CBT): 問題となる思考パターン(認知の歪み)や行動パターンに焦点を当て、それらを修正していくことで問題解決を目指します。
- 精神分析的心理療法: 無意識の葛藤や過去の経験が現在の問題にどう影響しているかを探求します。
- 家族療法: 問題を個人だけでなく、家族というシステム全体の関係性の中で捉え、改善を目指します。
- グループカウンセリング: 複数のクライエントが同時に参加し、相互作用を通じて学びや気づきを得ます。
アクティブリスニングとカウンセリングの主な違い

アクティブリスニングとカウンセリングは、いくつかの重要な点で異なります。
1. 目的の違い
- アクティブリスニング: 主な目的は、コミュニケーションの質の向上、相互理解の促進、良好な人間関係の構築です。話し手が安心して話せる場を提供し、自己表現や内省を促すことも目指しますが、必ずしも深刻な問題解決を主眼とはしません。
- カウンセリング: 主な目的は、心理的問題の解決、精神的健康の回復・維持・増進、自己成長の促進など、より専門的かつ治療的な心理的支援です。クライエントが抱える具体的な困難に対処することに焦点を当てます。
2. 実践者の違い
- アクティブリスニング: 基本的なスキルを学べば、誰でも日常の様々な場面(職場、家庭、友人関係など)で実践できます。管理職、同僚、家族、友人などが実践者となり得ます。特別な資格は基本的に不要です。
- カウンセリング: 専門的な教育・訓練を受け、多くの場合、**資格を持つ専門家(カウンセラー、心理士など)**が行います。心理学の深い知識と実践経験、倫理観が求められます。
3. アプローチの違い
- アクティブリスニング: 主に**「聴く」技術**に重点を置きます。共感的な態度で相手の話を受け止め、理解を深めるためのシンプルな技法(言い換え、開かれた質問、感情の反射など)を用います。
- カウンセリング: 「聴く」ことに加え、心理学の理論に基づいた多様なアセスメント(見立て)や介入技法を総合的に活用します。クライエントの状態や問題に応じて、認知行動療法、精神分析、来談者中心療法など、適切なアプローチを選択・統合します。
4. 設定の違い
- アクティブリスニング: オフィス、会議室、カフェ、家庭など、日常的な環境で行われることが多く、特別な設定は必須ではありません。会話の一部として自然に取り入れられます。
- カウンセリング: 通常、プライバシーと安全性が確保された**専門的な環境(カウンセリングルーム、医療機関など)**で行われます。時間(例:1回50分)、頻度(例:週1回)、期間、料金などが明確に設定されることが一般的です。
アクティブリスニングの実践方法と効果
効果的なアクティブリスニングのテクニック
アクティブリスニングを効果的に実践するためには、以下の点を意識すると良いでしょう:
- 相手に注意を向ける: 視線を合わせる、体を相手に向けるなど、非言語的なサインで関心を示します。
- 適切な相槌やうなずき: 「はい」「なるほど」「それで?」といった言葉や、うなずきで、話を促し、聞いていることを伝えます。
- 言い換え(パラフレーズ): 相手の言葉の要点を自分の言葉で確認し、理解を深めます。「〇〇ということですね」
- 感情への共感: 相手の感情に寄り添う言葉を伝えます。「それは嬉しいですね」「大変でしたね」
- 開かれた質問(オープンクエスチョン): 相手が自由に話せる質問をします。「その時、どう思いましたか?」
- 評価や助言を控える: すぐに自分の意見やアドバイスを言わず、まずは相手の話を十分に聴き、理解することに集中します。
アクティブリスニングの効果
アクティブリスニングの実践は、以下のような効果をもたらします:
- 話し手との間に信頼関係が築かれ、深まる
- コミュニケーションが円滑になり、誤解や対立が減る
- 話し手が自分の考えや感情を整理し、問題解決の糸口を見つけやすくなる
- 話し手の自己肯定感や安心感が高まる
- チームや組織内の風通しが良くなり、心理的安全性が向上する
- ハラスメントなどの問題発生を予防する効果も期待できる
ビジネスや日常生活での活用シーン
アクティブリスニングは、以下のような多様な場面で役立ちます:
- 上司と部下の1on1ミーティング、面談
- チーム内の会議やブレインストーミング
- 顧客との商談やクレーム対応
- 家族や友人との日常会話
- 子育てにおける子どもとの対話
- 異なる文化背景を持つ人とのコミュニケーション
カウンセリングの実践プロセスと効果
カウンセリングの一般的なプロセス
カウンセリングは通常、以下のような段階を経て進められます:
- 初期段階(インテーク面接など): クライエントが抱える問題や相談したい内容、これまでの経緯などを詳しく聞き、信頼関係(ラポール)を築きます。カウンセリングの目標や進め方、料金、守秘義務などについても説明し、合意します(インフォームド・コンセント)。
- 中期段階(展開期): クライエントと共に問題の背景や原因を探求し、理解を深めます。必要に応じて心理検査を行ったり、認知や行動の変容を促すための技法を用いたりしながら、問題解決や目標達成に向けて取り組みます。
- 後期段階(終結期): カウンセリングを通じて得られた変化や成長を確認し、学んだことを日常生活でどのように活かしていくかを話し合います。カウンセリングの終結に向けて準備を進め、必要であれば今後のサポート体制についても検討します。
使用される理論や技法は、カウンセラーの専門性やクライエントの状態、問題の性質によって異なります。
カウンセリングの効果
専門的なカウンセリングを受けることで、以下のような効果が期待できます:
- うつ病、不安障害、ストレス関連障害などの精神的な苦痛の軽減
- 自己理解が深まり、自己肯定感や自己受容感が高まる
- 対人関係のパターンを理解し、より良い関係を築けるようになる
- 問題解決能力やストレス対処能力(コーピングスキル)が向上する
- トラウマや喪失体験からの回復
- 自己成長を遂げ、より自分らしい生き方ができるようになる
- 全体的な生活の質(QOL)の向上
どんな時にカウンセリングを受けるべきか
以下のような状況に当てはまる場合は、カウンセリングの利用を検討すると良いでしょう:
- 気分の落ち込みや強い不安が長く続き、日常生活に支障が出ている
- 特定の対人関係で繰り返し問題が起こる
- 過去の辛い体験(トラウマ)がフラッシュバックするなど、影響が続いている
- 依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)の問題を抱えている
- 自分や他人を傷つけたいという考えが浮かぶ
- 人生における重要な決断や変化に際して、専門家のサポートが欲しい
- 自分一人や身近な人との相談だけでは解決が難しいと感じる心理的な悩みがある
状況に応じた最適な選択:どちらを活用すべきか
アクティブリスニングとカウンセリング、どちらを選ぶべきかは、状況や悩みの深刻さによって異なります。
日常的なコミュニケーション改善や軽度の悩み → アクティブリスニング
- 職場や家庭でのコミュニケーションを円滑にしたい
- 相手の話をじっくり聞いて、理解を深めたい
- 一時的なストレスや軽い悩みを聞いてほしい、共感してほしい
- 自分の考えや感情を整理するために、誰かに話したい
このような場合は、アクティブリスニングのスキルを活用したり、話をじっくり聞いてくれる友人や家族、あるいはアクティブリスニングを提供しているサービス(例: LivelyTalk)を利用したりするのが適しています。
深刻な心理的問題や専門的支援が必要な場合 → カウンセリング
- うつ病や不安障害などの診断を受けている、またはその疑いがある
- トラウマ体験による深刻な影響が続いている
- 自傷行為や自殺念慮がある
- 依存症の問題を抱えている
- 日常生活に深刻な支障をきたすほどの心理的苦痛がある
- 専門的な視点からのアドバイスや治療的介入が必要と感じる
このような場合は、精神科医、臨床心理士、公認心理師などの専門家によるカウンセリングや心理療法を受けることが重要です。
両方を補完的に活用するアプローチ
アクティブリスニングとカウンセリングは、排他的なものではなく、相互に補完しあう関係にあります。
- カウンセリングを受けながら、日常の人間関係ではアクティブリスニングを意識することで、サポートネットワークを強化する。
- まずはアクティブリスニングで対応してみて、改善が見られない場合や問題が深刻化した場合には、カウンセリングへの移行を検討する。
- 企業や組織においては、従業員全体向けにアクティブリスニング研修を実施し、コミュニケーションの土壌を育みつつ、個別の深刻なケースには専門的なカウンセリング(EAPなど)を提供できる体制を整える。
【関連サービスのご紹介】LivelyTalkとLivelyEAP
ここで紹介されているLivelyTalkとLivelyEAPは、それぞれ異なるニーズに応えるサービスです。
LivelyTalk:
- 個人向けのオンライン対話サービスです。
- アクティブリスニングのトレーニングを受けた「ホスト」が話を聞くことに重点を置いています。
- 匿名で気軽に利用でき、予約不要で話せる相手が見つかることもあります。
- 日常的なストレス、孤独感、誰かに話を聞いてほしいといったニーズに適しています。
LivelyEAP:
- 法人・行政向けの従業員支援プログラム(EAP)です。
- アクティブリスニングを主体としたアプローチで、従業員の早期ケアやメンタルヘルス不調の予防を目指します。
- 組織全体のメンタルヘルスリテラシー向上や生産性向上に貢献します。
- 研修などと組み合わせることで、組織的なケア体制を構築できます。
個人の軽度な悩みや「ちょっと話を聞いてほしい」という気持ちには「LivelyTalk」、組織全体のメンタルヘルス対策としては「LivelyEAP」が選択肢となるでしょう。
まとめ:両方のアプローチを理解し活用しよう
アクティブリスニングとカウンセリングは、目的、実践者、アプローチ、設定などに違いがありますが、どちらも人の心の健康と成長を支える上で価値のある関わり方です。
アクティブリスニングは、誰もが身につけ、実践できるコミュニケーションスキルであり、日常の人間関係や職場環境をより良くするための基盤となります。一方、カウンセリングは、専門的な知識と技術に基づいた心理的支援プロセスであり、より深刻な問題や心の健康回復のために必要となる場合があります。
自分の状況や相手の状態、問題の性質や深刻度を見極め、適切なアプローチを選択することが大切です。場合によっては、両方をうまく組み合わせることで、より効果的なサポートを得られるでしょう。
この記事が、アクティブリスニングとカウンセリングへの理解を深め、あなた自身や周りの人のメンタルヘルスケアに役立つ一助となれば幸いです。
