また、あなたに。― 選ばれるまで、選ばれてから。
「今月、この話をおりえってぃさんに聴いてもらおう」
しんどいことがあったとき、そう考えるようになったというお客様がいる。
職場での評価が上がったことを、報告に来る人もいる。
月に一度、自分へのご褒美として、会いに来る人もいる。
オンラインで一対一の対話ができる、LivelyTalk。
利用者は聴き手を選び、料金を払って、その人との時間を過ごす。仕事の悩みも、身近な人には話しにくいことも、嬉しかった出来事も、そこで言葉にできる。
2023年、2024年と、このサービスでベストリピーター賞を受賞したのが、おりえってぃこと大塚織恵だ。
ただ、初めから、お客様が来てくれる場所にいたわけではない。
LivelyTalkが始まったばかりの頃、サービスの名前を知る人は、まだほとんどいなかった。お客様が入れるようトークルームを開き、準備して待っていても、誰かが来るかは分からない。
その頃から、大塚は開き続けていた。
写真を変える。タイトルを考える。自分の聴き方も、見直す。
選ばれるようになるまでに、そして選ばれるようになってからも、重ねてきたことがある。
聴けている、と思っていた。
学生時代から、友人に相談されることは多かった。
「ちょっと話を聞いて」と声をかけられる。
悩みを聞く。
最後には「聞いてくれてありがとう」と言ってもらえる。
自分から得意だと名乗るほどではない。
それでも、人の話をちゃんと聴ける方だとは思っていた。
ある日、友人が悩んでいた。
大塚は、何度もその話を聞いていた。
友人はほかの人にも相談していて、
「この人には否定された」
「この人には、めちゃくちゃアドバイスされた」
と話していた。
自分は否定しない。余計なアドバイスもしない。
だから、自分はこの人の話をちゃんと聴けている。
けれど、友人が行動を変えるきっかけになったのは、別の人の言葉だった。
大塚は、悔しかった。
「こんなにちゃんと話を聞いていたのに、なぜ?」
友人が行動できたのは喜ばしい。
ただ、その行動につながったのが自分ではなかったことが、なぜか引っかかった。
今なら、人を行動させることが、聴くことの目的ではないと分かる。
誰の言葉で動いたかで、大塚と過ごした時間の価値が決まるわけでもない。
ただ、あの悔しさには、ごまかせない自分がいた。
「私はちゃんと聴けている」
「私はこの人の役に立てている」
相手のことを考えているつもりで、そんな自分を確かめたかったのかもしれない。
「話を聞いている自分に酔っていたんだと思う」
大塚は、当時をそう振り返る。
否定しない。アドバイスしない。そして、ありがとうと言ってもらえる。
その言葉を、自分が聴けている証として受け取っていた。だから、自分の聴き方を疑わずにいた。
できているはずのことが、説明できない。
社会人になり、キャリアコンサルタントの資格取得に向けた学習で、大塚は自分の聴き方を具体的に見直すようになる。
相手の目を見る。うなずく。身体を向ける。親身な姿勢で話を聞く。
そうしたことは、それなりにできていた。
ところが、相談者役と聴き手役に分かれてロールプレイをすると、その先が続かない。
なぜ、そこで話題を変えたのか。
相手のその言葉を、もう少し聴く必要はなかったのか。
次の言葉が出るまで、待てなかったのか。
自分の関わりなのに、理由をほとんど説明できない。
「ああ、私、上っ面だけだったんだな」
悔しくて、何度もロールプレイをした。
一度やる。
フィードバックをもらう。
たくさんメモを取る。
その指摘は何を意味しているのかを考える。
そして、またやってみる。
また、うまくいかない。振り返る。
それでも、大塚にとって、その時間は面白かった。
「聴くって、こんなに考えることがあるんだ」
できていないことが見えるたびに、次に試せることも見えてきた。
学びは、キャリアコンサルタントの資格を取得して終わりにはならなかった。
さまざまな講座やワークショップを受講し、自分にコーチをつけ、プロボノでも経験を積んできた。
できていないことに気づくのは、悔しい。
人に教われば、見たくなかった自分も見える。
それでも大塚は、学ぶことをやめなかった。
聴くことは、知識として理解しただけで身につくものではない。
学ぶための費用も、自分のものになるまでの時間も必要だった。
教わったことを実際の対話で試し、うまくいかなければ振り返り、また試してみる。
その一つひとつの経験を、自分の中に吸収してきた。
今はできないことも、行動し、気づき、学び、試すことで、少しずつ自分の力に変えていける。
大塚が信じてきたのは、今の自分の完成度ではなく、学び続けることで昨日より今日の方が聴くのが上手くなっていくという、自分の可能性だった。
始める前から、結果が約束されていることはない。
講座を受けても、コーチをつけても、その先で何をするかは自分に残る。
自分を信じるというと、自信を持つことのように聞こえる。
けれど、大塚の歩みを見ていると、別の姿が浮かぶ。
まだできない自分にも、育つための機会を渡すこと。
その機会を、大塚は自分に与えてきたのだ。
誰もこなかった。
LivelyTalkの立ち上がりからルームを開く中で、大塚は、自分の見せ方にも向き合うことになった
プロフィールの写真を見直す。
タイトルを考える。
画面に映る服装を工夫する。
メッセージを送るタイミングや内容を考える。
実際に話を聴く中では、自分の関わり方も見直す。
入口から、対話の前後の時間まで。
工夫する場所は、いくつもあった。
まず選ばれなければ、話を聴かせてもらうことはできない。
けれど、よく見せて選ばれても、相手が期待した人物と実際の自分が離れていては意味がない。
そこで大塚は、自分がどのような話を聴くことを得意としているのか、どのような自分なら安心して話してもらえるのかを考えた。
いわば、セルフブランディング。
大塚にとって、自分自身の見せ方をこれほど真剣に考えたのは、初めてのことだった。見せ方を考えることは、自分自身を知り直すことでもあった。
例えば写真ひとつでも、ただ盛れてる写真を選ぶのではない。
自分らしさと、自分が届けたい聴く時間が伝わる写真に変えた。
すると、プロフィールを見てもらい、存在を知ってもらえる機会が増えていった。
一方で、うまくいかなかったこともある。
以前、関西にルーツを持つことをきっかけに、入室してくれたお客様がいた。
大塚は「関西人であることが、来てくれた理由なのかもしれない」と考え、「関西人集まれ」というようなタイトルのトークルームを開いた。
しかし、入室する人はいなかった。
親しみを感じてもらえることと、お金と時間を使って話しに来てもらえることは、同じではなかった。
相手は、何を求めているのだろう。
大塚は、頭の中や心の奥にありながら、まだうまく言葉にできていない思いを想像するようになった。その思いを代弁するようなタイトルを考えるようになった。
すると、あるお客様から、こんな言葉をもらった。
「私のことを言ってもらっていると思いました」
聴く力は、選ばれた後に初めて届けられる。
だから大塚は、対話だけでなく、出会う前の伝え方もまた、「聴くこと」の一部なのだと考えるようになった。
話を聴くのが好きだという思いも、学んできたことも、プロフィールに書くことはできる。
けれど、画面を見た人が入ってくれるかは、相手が決める。
一歩踏み出して来てくださる方に、何を届けられるのか。
自分が、目の前の一人にどう関われるのか。
仕事として聴くことは、それを実際の対話の中で確かめ続けることでもあった。
選ばれる前に、選ばれるために自分ができることを、積み重ねていた。
もう一度、来てくださる。
お客様が、再び訪れる。
「また、おりえってぃに聴いてほしい」
その喜びを、大塚はLivelyTalkで初めて知った。
ある初めてのお客様の話を聴いたとき、大塚には、最後まで確信がなかった。
相手の言葉と息遣いに集中しながらも、心の中では問い続けていた。
「この人が求めている聴き方を、私はできているのだろうか」
トークの終わり、お客様が「では、また次回」と言った。
大塚は、別れ際の挨拶だと思い、「またね」という意味で受け取った。
ところが、続けてこう聞かれた。
「次回は、いつにしますか?」
その場で、次に話す日が決まった。
「ああ、これでよかったんだ。この人が求めていた“聴く”を、私は届けられたんだ」
それまで大塚がしてきた、友人や身近な人の話を聴くこととは、違う実感があった。
自分が話したいことを抑え、何かを与えようとすることからも離れ、ただ目の前の一人に集中する。
「選ばれる聴き方って、こういうことなのかもしれない」
トークを終えた後、大塚の身体は、真冬とは思えないほど熱くなっていた。清々しさと興奮で、深夜になってもなかなか眠れなかった。
「また来ます」という言葉だけでは、本当に戻ってきてもらえるかは分からない。
だからこそ、見覚えのある名前が再び画面に現れた瞬間は、毎回、「おっ」と心が跳ねた。
選ばれた日は、たまらなく嬉しい。
選ばれなかった日は、何ができるかを考える。
その繰り返しの中で、「また話したい」と戻ってきてくれる人が、少しずつ増えていった。
選ばれた後も、変えていく。
2年続けてベストリピーター賞を受賞しても、大塚の学びは終わらない。
「昨日うまくいった聴き方が、今日出会った人にも正解だとは限らないから」
もっと聴けるようになりたい。
その先に、まだ考えることがある。
「だから、めちゃくちゃ面白い」
今、大塚が増やしたいのは、この仕事の面白さを一緒に味わえる仲間だ。
Livelyで教育担当となり、さまざまな人のロールプレイを見る機会がある。
一生懸命に聴こうとしている。
相手の役に立ちたいと思っている。
できていると思っている。
その中に、昔の自分がいる。
指摘されて初めて考えたことがある。
フィードバックの意味が、すぐには分からなかったこともある。
大塚も、その時間を通ってきた。
だから、よかったか、よくなかったかを伝えるだけで終わらせたくない。
聴き手は何を考えていたのか。
相手にはどう伝わったのか。
なぜその関わりがよかったのか。
どこを見直せそうなのかを、一緒に考える。
かつては、自分がしたことを説明できなかった。
今は、以前よりもその理由を理解し、人に伝えられるようになった。
「『聴く』の面白さを一緒に深めていける人が増えるのが嬉しい。そして聴く喜びを得られる人が増え、聴かれてよかったと思う人が増えることは、もっと嬉しいです」
自分が悩み、学び、試してきたことが、誰かの次の一歩につながっていく。
お客様の日常に、話したいことが出てきたとき。
「今月、この話をあの人に聴いてもらおう」
そう思い出してもらえる喜びを、大塚は知った。
その喜びを、仲間とともに広げていく。自分にできることは、まだある。
「また、あなたに」
そう選ばれる聴き手を、一人でも多く。大塚自身も、その一人であり続けるために。
◇
大塚織恵(おりえってぃ)
LivelyTalkホスト。2023年・2024年ベストリピーター賞、2025年Best Lively賞受賞。元教員、国家資格キャリアコンサルタント。株式会社LivelyのCHROとして、聴く仕事に関わる人の育成や講座づくりにも携わる。
「聴くのが好き」を、実践を通して育てたい方へ
Livelyのアクティブリスニングプロフェッショナル養成講座では、半年間の実践と振り返りを通して、相手に応じた関わりを考え、自分で改善を続ける力を育てます。



